変わらないもの 

健康、省エネ、木のある暮らしが謳い文句。
 これらの謳い文句は住宅メーカーの市場戦略だ、毎日のように届けられる新聞広告やTVから流されるCMには、木に包まれた小綺麗な室内、健康で物わかりの良さそうな家族が、楽しそうな笑顔を振りまいているそんな住まいが描かれ、家族とはそうあるべしという脅迫観念を抱かざるを得なほど垂れ流されている。
 しかし、考えてみれば、この謳い文句は、元をただせば彼ら住宅メーカーが自ら作り出し続けた住まいへのアンチテーゼ、かつて彼らは本当に安全な建材で住宅を造る苦心をしただろうか、省エネルギーに関心を持っただろうか、良質な木材の供給に心を砕いただろうか。
 ノンだ!と言わざるを得ない、自らまいた種を刈り取ることもせず、真摯な反省もないままに、逆手にとって商品化する根性には頭が下がる思いがする。

 「内部告発 住宅業者にだまされるな」:エール出版社は1993年に出版された、今読み返してみても状況は変わっていないと思う、この本の著者は元住宅の営業マン、いわば内部告発本、そこに通底するのは”住宅はつくるものではなく売るもの”という住宅メーカーの営業方針だ。
 要するに口八丁手八丁で客をその気にさせておいて、契約がすんだら後は下請け任せという図式だ。
 しかし不思議だが、車やパソコンは事前にきっちり性能を確認し、完成品の品質を手にとって確認しながら購入するのが普通、なのに住まいはというと、事前の性能や品質の確認はできない、要望通りの住まいができるという信頼関係を元に契約する。
 なのに、信頼できるという確信を得る手段があまりにも安易だと指摘している、有名メーカーの営業マンという肩書きに弱いのか、簡単に契約してしまう。
 これがどんな不利益を生むのか、当然広告宣伝費といった営業費用が跳ね返った不透明なコスト、過剰装備、第三者により確認されない工事、そしてなにより”住宅はつくるものではなく売るもの”という営業方針が生み出す職人の心がこもっていない住まいは本当に健康的な住まいか、などなど。
 
”健康、省エネ、木のある暮らし”、謳い文句に踊らされる消費者と過剰に欲望を刺激する住宅メーカー、この図式(消費者の意識とメーカーの営業方針)は、我々があの阪神淡大震災に遭遇しても変わっていない、これは”平和ぼけ”といっても良いのかもしれないと思う。