人が住まいを失う時

 ”人が住まいを失う時”とは「住宅喪失」島本慈子ちくま新書の第一章の表題です、ここでこの本を取り上げたのは、今日本で行われている社会制度の変化を知ってほしいからです。
 戦後、日本の政策の中心には、偏り無く全体の底上げを図るべく意志が働き、常に地域がバランス良く、格差無く均衡発展できるように心血を注ぐことであったと思う、矛盾を孕らみはしてもである。
 その結果、特別な大金持ちもいないが一億総中流意識を持ち得た社会ができあがった、そしてそれは住宅政策に対しても同じで、政策は持ち家を推奨した。
 だから私たちは、誰もが、一生懸命に働けば我が家を持つことができる、我が家を持つことが働く原動力であったと言っても間違わないかもしれなかった。
 そんな時代が終焉を迎えている、いやもうすでに新たな時代に突入しているが、まだ肌で感じられないだけだで、この2〜3年でいやでもそれを思い知らされると。
 著者によれば、契機はバブルの時代で、その後失われた10年を経て構造改革の美名の元で行われた、住宅金融金庫の廃止と雇用の流動化を促す労働基準法の改正にあると述べている。
 住宅と労働が弱肉強食の時代に弱者切り捨ての時代になる、内橋克人氏が「もう一つの日本は可能だ:光文社」で言及している”人間生存にとって不可欠な公共財の全てを、どん欲な利益追求の対象に変えてしまうような、むき出しの資本主義”そんな時代を実感せずにはいられない。
 「住宅喪失」では、労働と住宅政策が、住宅金融金庫の廃止と住宅ローンの新たな政策がどんなに我々国民に影響を与えることになるにか、勝ち組と負け組を作り出す政策の容認がなぜ弱者切り捨てになるのか、雇用の流動化が雇用差別や信用差別を作り出し、我々に深刻な影響を与えるか等について言及しています。
 日本は住宅政策労働政策もアメリカを追従している、この追従政策がどんな影響を我々に及ぼすか、この本を読んで一緒に考えてみませんか。