ダニのいない、カビの生えない環境は人にとって快適か。 

近年、住まいの室内環境は健康的がキーワードになっている、住宅建材、接着剤、塗料、防腐剤などの有機化合物が人体に与える健康被害の深刻さが報道されるに及び、化学物質過敏症シックハウスが身近に存在することの当たり前さが認知された結果でもある。
 このことは一方では、行政にも重い腰を上げさせ、建築基準法が改正され、曲がりなりにも規制という網が張られる結果を生んだ。
 しかし、冷静に考えると、我々が日常的に生活する環境は、人体に対していつか牙をむきかねない有機化合物で覆われているといっても過言でない、例えば、現代の農業が農薬や化学肥料に依存した生産性の上に成り立っていることは周知の事実であり、住まいもしかりだ。
 社会病理学的視点から見ると、人間を取り巻く環境が主因となって起こる疾患を環境性疾患と言うらしいが、アレルギー疾患と呼ばれる花粉症、アトピーシックハウス症候群に代表される化学物質過敏症はまさに現代が生んだ環境性疾患といえるのではないか。
 建築(住まい)の目的の一つは、非衛生的で劣悪な環境を克服し、健康的な生活を構築することにあるのに、その住まいを構成する建材等がシックハウス症候群を引き起こしたことは、ショックで再度、健康的な環境とは何かを問いかけざるを得ない。
 日本の住まいは、室内を少ない均一な温度環境に保つこと、カビやダニの発生しにくいツルツルぴかぴかの建材でくるむこと、内外を完全に遮断し断熱性と気密性を向上させることが命題だった。
 人にとって快適なはずの、ダニのいない、カビの生えない環境は健康的かというと必ずしもそうでもないかもしれない、なぜなら「人も生物であり、その快適条件域とダニやカビの生育条件域がオーバーラップしている場合が多いから」だと医学博士の田中正敏先生はいわれる。
 生物の活動は環境条件と密接な関係にあることは誰もが認める事柄だ、しかしその環境とは、地形や、気象、風土といった自然環境や、人為的手を加え作り出した都市や住居の環境と共に他の生物の存在や活動も含まれことを忘れてはいけないとも田中先生は言う。
 何もダニ、カビと一緒に暮らそうと言っているわけではありません、ダニはアトピーの最大アレルギー原因の一つであることは広く知られていますし、カビはそれ自身が健康を脅かす原因です、が、人は常に他の生物への過度の拒否反応によって期待されるクリーンな環境で生活できるわけではありません、ダニ、カビの抗菌剤等による無理な封じ込めは、免疫力の低下などの危険性があることも知られています、過度にクリーンな環境は、逆に生理的機能の反応性と適応能力を低下させかねない。