とるに足らない迷信

 ”とるに足らない迷信”と言いながら家相にこだわる人が多い、過日セミナーで講師をした際、”家相を取り入れた設計をしてくますか”という質問があった、質問を発したのは、見るからに30台前半の頃のご夫婦だった。
 普段は”迷信!”と一笑に伏す人でさえも、住宅を新築するとなると急に”鬼門に便所がない方がいいと言いいますが”などといって来る。
 家相をみてもらうという風習はすでに江戸時代には行われていたらしい、東京家政学院大学の村田あが氏によると、家相占いは、占い、手相、人相、剣相と共にも流行していて、住まいの様々な事象について方位別の吉凶判断お下すことにより、住み手の禍福を左右するものだったと述べている。
 さらに、占いだけでなく住まいの敷地選定から間取り、庭造りに至るまで様々な知識が盛り込まれていてかなり体系化された説・家相説だったとも述べている。
 しかし、当時も、家相説を厳密に取り入れ、吉相で敷地から間取りまで整えるのは非常に困難である認識があり、凶の回避の仕方、方法、裏技、特例をいくつも用意されていた、裏技や言い逃れや、特例は時代がさかのぼるほど増え、歴史の中で、様々な疑問や問いかけに対して、その都度、解釈が付け加えられ、補完されて現在に至っているようだ。

 例えば、艮(北東)・鬼門には便所をつくってはいけない、坤(南西)・裏鬼門には台所をつくってはいけないという家相の凶の表現はよく聞く言い伝えだ、家相では鬼門・裏鬼門は水気や不浄を嫌う、だから便所や台所はだめというわけだが、これを建築的に解釈すると北東は、秋分から春分まで日当たりが悪く乾燥しにくい、また昔は気密性が悪く北風が入りやすいので健康上、衛生的が問題あった。
 南西はかつて江戸において、南からの海風が江戸の大火をいくつも引き起こしたため、風上に風呂をおくことを嫌ったことと、南西の日当たりの良く、風通しのよい場所を風呂がしめるのがもったいなかったなど、なるほどと思わせる。

 家相は、単に頭から鵜呑みにしたり、忌み嫌うだけでは、迷信に振り回されているといってもいい態度かもしれない、家相の言い伝えの中に、現代的で、科学的な根拠を見いだせる時、住まいづくりのための知恵、設計のための知恵にするという態度も大切だ。
  
 ”家相が!”と建築主が口に出した時、最近こう思うようしている。
 時間をかけ、互いの思いがシンクロしたプランだと思っていたプランが、突然、家相が持ち出されだめになったときは、悔しいいというよりも、まだ気持ちのこもっていないプランだったなと反省することにしている。
 というのも、建築主は、きっと僕の提案したプランが気に入っていない、が、無碍に否定するのも悪いかなという優しい気持ちが、家相を盾に”考え直してね、もっと良い案を提案してね”迫っているのだと、臨機応変な対応を身につけることも大切だ。