ストックとフロー

 今後の日本のパラダイム、規範はストックだと思っていた。
 戦後、日本はずっとフローを規範に進んできた、近代という時代が規範としてきたフローとは”進歩する、大きくなる、成長する”が幸せをもたらすと信じた時代だった。
 建築界ではスクラップ&ビルドがそれだ、僕らの祖先が暮らしの中で創意工夫し、時間をかけて蓄積してきた文化をいとも簡単に壊し、人の手の痕や暮らしの痕跡があまり感じられない物を作り続けた、デベロッパーという言葉には、いつも違和感があった、破壊することが優先し、暮らしや、記憶といった、人の営みへの暖かい視線や感謝を感ずることはできなかった、事実デベロパーの視線は、いつも、生産性と効率が先にあった。
 結果、環境負荷が増大し健康面でのストレスも無視できない領域に達し、人々の意義申し立てが、我々の進むべき方向の規範をフローからストックに変えつつあると理解していた。 
 先頃、元吉本興業木村政雄さんのセミナーで次のような話を聞いた、「不透明な時代をぶち破る、オンリーワンののすすめ」という演題だった、ここで木村氏は、これまでは量的拡大の時代だがこれからは質的発展の時代になる、そんな時代の転換期を生き抜くための能力とはストックではなくフローだというのだ、量的拡大の先に幸せがあると信じてきたが、人は幸せになったか?、結局”人を幸せにしない日本というシステム”を作っただけ、とおっしゃる。
 抑制から拡張(業界内の競争から業界という枠を越えてという意味)、閉鎖性から開放性(異質を受け入れるという意味?)、滅私奉公から(社蓄という意味:佐高信)からレーゾンデートルの確立、同質性からオリジナリテイ・個性、枠内からエンターテイナメント(ここは吉本興業らしい)、ナンバーワンからオンリーワンへ、足の引っ張り合いの競争から共に認め合う競争へと木村氏は言う。
 特に”変化”が大切、できあがったスタイル、イメージに安住することなく、絶えず変化を求める、島田伸助を引き合いに出しそれを強調した。
 これって良く考えると、松尾芭蕉奥の細道でひらめいた不易流行のことかもしれないと思った、一カ所に停滞しないで常に変化すること。
 
”「只、日々流行シテ日ニ新タニ、又日ニ新タナリ」”だ。
 逆説的な言い方だがだchange is no change」ということ。
 だから、木村氏の言う、フローの意味は”流動”と言うより”変化”ということだろう、彼に言わせるとストックは停滞と言うことになるのか、しかしストックといえども変化している、ただ非常にゆっくりだから止まっているように見えるだけだ。