時ノ寿で考えたこと

passarella2007-03-03

  
 時ノ寿の駅はの接合部は、従来(伝統構法)の仕口・継ぎ手で接合することを考えている、もちろん現行法では金物なしの接合部は認められていないので、無金物とは行かない
、伝統構法の接合部を最大限生かすと言う意味だ。

 新耐震以降の耐震性能は、震度5強程度の地震に対しては無傷で、極めて希に起こる(震度6強)の強う地震に対しては、建物は倒壊せず、ともかく人命は守ろうというもの。
 この基準は結構厳しく、よって、もちろん、伝統の接合部がもつ特性の粘り強さでは、とても得られない性能だといことは良く理解しているつもりだ。 

 だから、まず建物の耐力壁のバランスには気を配った、建物の形状が複雑にも関わらず、偏芯率を0.01〜0.02に押さえることができた、これは、各耐力壁に過大な水平力を集中させず、バランスよく分散できることに通じる。
 壁量計算をする上で、雑壁効果って言うのがある、壁量計算の前提条件として、雑壁が水平力の1/3を負担するとしていることをいう、だから雑壁が少ない場合は、建築基準法の基準ぎりぎりの壁量では、数値的には2/3の耐力壁しか存在しない可能性がある、時ノ寿は雑壁が少なく、この点は注意が必要で、計算では必要壁量の1.3倍の壁量を確保した。   

 従来の仕口・継ぎ手とは、例えば土台の継ぎ手は、一般的には腰掛け鎌継ぎ手だが、今回は追掛け大栓継ぎ手とした、もちろん加工手間はかかるが、引っ張り強度の比較では追掛け大栓のほうがはるかに高い
 柱と土台の仕口は長ほぞ差しで、引き抜きに対しては、かしの込み栓(18*18)で対応する、柱のほぞは土台を貫通した方が水抜きにいいとも言われているが、短ほぞ差しに比べ、しっかりと固定できることは言うまでもない。
 脚下廻りは、全てではないが、土間に面する柱は脚固めを回している、脚固めは地震を受けても柱を拘束して開くことを防いでくれる、土台と合わせて合成部材となり、有効な構造的抵抗要素と言われる所以だ。

 等し柱は6寸角、土台より柱が太い場合は、柱勝ちにするのが賢明、古民家でも礎石の上に直接柱を置いているが、結構長持ちしてるし、構造力学的にもいいらしい。

 土間と広間を分節する大黒柱は8寸角、加工場で見ても大層立派だ、建てられた時の存在感は想像しただけでもワクワクしてしまう、この大黒と小屋組を組む相棒は、リユースされた地松の梁、かつてアノニマスな民家の小屋組を支えていた松は、鉋を掛けられて再び生気を取り戻し、第二?の人生に期待を膨らませているように見えるから不思議だ。
 
 時ノ寿は伝統構法を暮らしを包む空間に生かしたいというMさんの強い思いがベースにある、ノスタルジーと言っていいかもしれない、かといって、伝統構法が先にあって、金物で補強された接合部で構成される現代構法を否定しては成立しない。

 伝統構法に刻まれた知恵を今に生かすにはどうしたらいいか(京都の町屋を参考にした防犯を兼ねた蔀戸とばったり床机などの工夫もMさんの提案だ)……Mさんと共に悩んだこの1年だった。

参考
仕口試験(近山スクール名古屋 仕口試験報告書
      (岐阜県立森林文化アカデミー 木造建築スタジオ)の実験結果
 実験方法
  ・試験体が横架材(ヒノキ)+柱(ヒノキ)+カシの込み栓のT型仕口の
   試験体を柱軸方向に引っ張り、許容応力度を確認する試験。
 試験結果の概要 
  ・込み栓が15角で8.54KN、CP・T金物を使用したとき7.05KN、
  ・込み栓が18角で9.45KN、VP金物使用で8.63KN。

 継ぎ手の引張耐力(計算より求める。)
 金輪継ぎ手
  ・アゴのせん断破壊形状時の最大耐力=904.5KG
  ・込み栓ののめり込み破壊時の最大耐力=1、350KG
       よって金輪継ぎ手の最大耐力は944.5KG。
 追掛け大栓継ぎ手
  ・アゴのせん断破壊形状時の最大耐力=4134.4KG
  ・込み栓ののめり込み破壊時の最大耐力=3、543KG
    よって追掛け大栓継ぎ手の最大耐力は3、543KG、
 腰掛け鎌継ぎ手
  ・鎌のせん断破壊時の最大耐力=1579.5KG
  ・鎌の付け根の圧縮破壊時の最大耐力=1、711KG