建築士制度と下請け

 建築士法・第18条で建築士の設計・監理業務を定めている、ここでは建築士建築基準法に適合した建築物の設計を行う業務を負わせ、建築主に対しては設計は内容の適切な説明義務が負わされている、また、工事監理においては、工事が設計図書のとおりになされているか確認し、なされていなければ、直ちに施工者に注意し、施工者が従わなかったら、建築主への報告義務を課している。
 これらの規定は、建築士に業者とは独立して、建築主の立場で業務を行うべきことをうたっているが、これは、建築士が業者を指導できる強い地位にあって始めて果たすことのできる、だから、建築士が業者に雇われたり、下請けだったりすれば果たし得ないことがおわかりだと思う。……「建築士制度の改革を」:柘植直也 建築ジャーナル2001/4より抜粋。
 しかし現実には業者の社員だったり、下請的な立場で業務を遂行する例が少なくない、社員であれば、会社の方針に逆らいにくく、まずは、利益を挙げることが第一の目標になり、品質の確保や、安全が二の次になったりするかもしれない、下請けであれば、元請けの意向は拒否することは難しく、下請けを変えると言われば、基準法すれすれの設計や、法の網をくぐることに精力を傾けてしまうだろうと、想像することも難くない、元請けあるいは発注者の無言の圧力、中小企業や個人事業主に方は、自分に重ね合わせられた方もいるかもしれませんね。

 建築設計の業務では、意匠全般を担当する設計事務所と構造を担当する構造設計事務所、さらに、電気や衛生設備などの、機械設計と呼ばれる分野を担当する設備設計事務所が共同で作業し全体を意匠設計者が統括する、確認申請なども意匠設計者の名で申請することになる、構造設計、設備設計との共同設計とは名ばかりで、契約上は下請けになる、実際、独立して建築主と契約し業務を果たした事例を聞かないし、彼らは意匠を担当する設計事務所から依頼を受ける下請的な立場での業務となることが多い。
 前に述べたように設計事務所でさえ下請化している事務所が多い現実を見れば、構造設計事務所はさらに二次下請けになる、いわゆる孫請けだ、仕事を失うことに対する恐怖は想像がつく。

 設計の下請化という現実が何故日常的に起きているかというと、そこには建築士法の制定のプロセスが濃密に絡んでいると私は考える。
 ここでは詳しく述べることができないが、制定当時の社会情勢や住宅政策が、建築や住宅を設計監理する業務に対して、建築士の役割の重要性や必要性を明記することができなかった、建築士法は、建築士が業者に社員として雇われたり、下請的立場での業務遂行を禁止していない、このことが、建築士の立場を著しく下げざるを得ない大きな原因だと思う。